著者の佐々木中さん自身がライムスター宇多丸さんとの対談のなかで「思想・哲学のなかにはそれを知ることで元気が出るものとそうでないものがあって、元気が出ない思想はもうそれだけでダメなんです」と語っていますが、これはまさに「元気が出る思想」の極北。何度読み返しても、読後に見えてくる景色の笑っちゃうくらいのだだっ広さ(時間的にも空間的にも)に圧倒されます。
スーパーヒーローやスーパーヴィランが当たり前のように存在し活躍する都市・アストロシティでの出来事を、そこに暮らす市民たちの視点から描く、ライター(原作者)のカート・ビュシークいわく「アストロシティという街自体が主役」という一風変わったスーパーヒーローコミック。ともすれば「子ども騙し」、そうでなければ「暴力的」といった先入観を持たれがちなスーパーヒーローというジャンルですが、このジャンル自体の普遍的な存在意義を説いたカート・ビュシーク自身の序文が本当に感動的で、この序文を読むためだけにこの本を手に取ってほしいほど。私の知るかぎり「スーパーヒーローコミックへの最も広く広げられた入り口」という感じで、入門にこそおすすめです。
邦題『オデッセイ』として映画化もされた、火星サバイバルシミュレーションSF。「仮説を立てて、実験でそれを検証する」という科学の営みそのものを誰が読んでも面白いエンターテインメントにしてしまうアンディ・ウィアー(15歳でアメリカの宇宙開発機関にエンジニアとして雇用されたフィクションのような天才)の筆力に驚くのと同時に、知恵と工夫とユーモアさえあれば人類は火星ででも生きていけることを描いた人間讃歌でもあるので、読むたびに元気をもらえます。
皆さんがこれからの人生において直面するどんな困難も、おそらくこの小説の主人公マーク・ワトニーよりはマシな状況にあると思われるので、そういう意味でも元気が出ます。
今は亡きR&B、HIP HOP専門の音楽雑誌、ブラストの人気連載をまとめた単行本。これまで形を変えて三度出版されていますが、最新の文庫版は1,400ページを超えるボリュームの鈍器。
もともとはR&B、HIP HOPの現状を俯瞰的に捉える対談企画として始まった「ブラスト公論」ですが、メンバー同士の掛け合いを文字に起こした時の面白さに気づいてからは「モテとは何か」「インターネットでセクシーを開拓するときはどこまで掘るか」などテーマが広がっていったそう。
居酒屋で隣の席から聞こえてくる会話のような読み口でありながら、人間が雑談として話す内容はほぼこの本に含まれていると言ってもいいほどの普遍性も持っています。…